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芥川賞を受賞した田中慎弥さん
−まったくもって凄まじい生き方…

2012/1/21

 まずは、ヤフー掲載のITmedia eBook USERの記事(1月18日(水)16時21分配信)を一
部引用:

 1月17日、日本文学振興会が主催する第146回芥川賞・直木賞の選考会が開催され、
芥川賞に、円城塔さんの「道化師の蝶」(『群像』2011年7月号)、田中慎弥さんの
「共喰い」(『すばる』2011年10月号)が、直木賞に葉室麟さんの「蜩ノ記」(祥伝
社)が選ばれた。

 同氏は、4歳で父親を亡くし、今も母親と2人で暮らしている。アルバイトも含め一度
も職に就いたことがなく、20歳のころから小説を書き続けているという。

田中 確か、(米女優の)シャーリー・マクレーンだったと思いますが、何度もアカ
デミー賞の候補になって、最後に(賞を)もらったときに、『私がもらって当然だと
思う』って言ってたそうですが、まぁだいたいそういう感じです」

 4回も落っことされた後ですから、ここらで断ってやるのが礼儀といえば礼儀ですが、
私は礼儀を知らないので。もし断ったって聞いて、気の小さい選考委員が倒れたりな
んかしたら都政が混乱しますんで、都知事閣下と都民各位のために、もらっといてや
る、です。とっとと終わりましょうよ。

―― 田中さんは「自分は働いたことがない、働いたら負けだ」と以前話していまし
たが、いま仕事の見つからないニートの方に一言あれば。

田中 人によって状況が違うので私が言えることはありません。私は本を読んで小説
を書いて、作家になったというだけです。

―― 選考委員の石原慎太郎氏に一言。

田中 だから、今なんか、おじいちゃん新党作ろうとしてるんでしょ。新党結成に向
けていそしんでいただければと思います。

(引用終わり)

 小説はほぼ読まない自分としては、田中慎弥さんはおろか、他の方々もまったく知
らなかった。しかし、田中慎弥さんの印象は確かに強烈。

 普段小説なんて読まないが、そんな自分でも田中さんの本は読んでみようかなとい
う気持ちになった(結局読まないだろうが…いつか田中さんの人生を語ったエッセイ
を書いて欲しい。それはぜひ読んでみたい)。

 結果論ではあるが、受賞会見で見せたやや型破りな受け答えは、マーケティング的
には非常にうまくいったのではないか。あのパフォーマンスを意図的にやったとした
ら、実に一流の芸である。

 少し興味を持ったので、ウィキペディアで田中さんについて調べてみたら、いろい
ろと驚異的な事実が分かった。

 以下、田中さんのウィキペディアから一部引用:

 高校卒業以来アルバイトも含め一切の職業を経験せずに過ごした。20歳の頃より小説
を書き始め、執筆に10年をかけた「冷たい水の羊」で2005年(平成17年)、第37回新
潮新人賞を受賞し、デビューを果たした。2007年(平成19年)、「図書準備室」で第1
36回芥川龍之介賞候補となった。2008年(平成20年)にも「切れた鎖」で第138回芥
川龍之介賞候補となった。

 2008年(平成20年)、「蛹」により第34回川端康成文学賞を、当時としては史上最年
少で受賞する。同年に「蛹」を収録した作品集『切れた鎖』で第21回三島由紀夫賞を受
賞した。2009年(平成21年)「神様のいない日本シリーズ」で第140回芥川龍之介賞
候補に、2011年(平成23年)『第三紀層の魚』で第144回芥川龍之介賞候補になった

(引用終わり)

 高校を卒業してからバイトなど仕事を一切しないで、33歳でプロの小説家としてデ
ビューするまで書き続けていたことは、凄まじいとしか言えない。

 「冷たい水の羊」というものを10年もかけて書いたとか、恐ろしいにも程がある。

 よくデビューできるまで心が折れなかったと思う。

 高校を卒業してからデビューするまで15年間ほどあったと思うが、恐らく何回か、
あるいは何度も悩んだことだろう。「本当にこのまま書き続けていていいのだろうか。
普通に仕事をしなくていいのだろうか。本当に小説家として成功できるのだろうか」
などと。

 小説家として絶対に成功できるという自信、これ以外の生き方をしないという覚悟、
世間なんかどうでもいいというような開き直り。

 高校を卒業して15年間、何もバイトなど仕事をしないというのは、通常の精神状態
ではむしろ苦しいはず。

 どんなに怠け者、ダメ人間でも、そこまで仕事(バイトを含め)から徹底的に離れ
るというのは至難の技だろう。

 つまり、田中さんは本を読むのが好きなだけではなく、小説家として自分には絶対
に才能があると、心のなかでは感じ取っていたのだろう。あるいは、絶対に成功でき
ると確信するほど自分には才能があることを冷静に認識していたはず。

 そうでなければ、高卒から無職で15年間も精神的に耐えられるはずはない。それだ
け仕事をしないというのは、通常はメンタルへ相当悪影響がある。

 また、プロデビューしてから、その才能を証明するかのように、名のある賞をどん
どん受賞している。

 その割には、私が小説をほとんど読まないせいなのか、芥川賞受賞会見で見せた強
烈な記者会見までは、田中さんの名前すら知らなかった。

 まさに本が売れない現状を反映している可能性もあるし、小説は売れないビジネス
になっているのだろう。

 アマゾンで田中さんの本を検索してみたが、有名な賞を受賞してきた実力があるに
も関わらず、今までそれほど本は売れてこなかったと推測できる。

 しかし、今回の記者会見での破天荒な(あるいは破天荒に見せた)質疑応答のおか
げで、今後田中さんの本は(「「共喰い」)はもちろん)売れるだろう。

 プロの小説家として、富を手にできる日も近いはず。

 高卒以来バイトすらもせず、小説を書くことだけの生活を送り、プロデビューする
まで15年間も続ける。プロデビュー後も書き続け、有名な賞をどんどん手にしてゆく
そしてついに、プロの小説家として大々的に有名になった(理由はどうであれ)。

 才能があるだけでは、プロの小説家として生き残れない。売れなければ消えてしま
う。

 だから、今回の記者会見は田中さんにとってはプラスでしかない。私のように小説
に全然興味のない人間にまで、強烈な印象を与えたのだから(もう一人の受賞者は、
もう既に名前すらも浮かばない)。

 田中さんの生き方を見ていると、スティーブ・ジョブズの言葉を思いだしてしまう:

Stay hungry, stay foolish.(ハングリーであり続けろ、馬鹿であり続けろ)

 小説家として生まれて来て、小説家としてついに成功を手にした(名前が売れた)
田中慎弥さんに、心から乾杯。

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